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畑の長い話

【読書記録】わたしを離さないで/カズオ・イシグロ

ネタバレは含んでいないつもりですが、どこからどこまでをネタバレとするかが分からないので、そしてこの作品は「一切の前情報」を入れないでのぞむほうがいいのではないかと勝手に思うので、未読の方はまた今度いらしてください。

 

話題になってから気になって、なかなか書店で買えないのでもだもだしていましたが兄の協力で読めました。内容には関係ないのですが、「すごく有名な作品なのに読んでいない」っていうのに変に引っかかって、逆に触れるのを避けてしまいそうな特に意味のないプライドをとても自覚したので、そういう余計なところをうっちゃって積極的に本が読みたいなと思いました(作文

 

以下読書メーターに書いたログから。

"兄からもらって読む。遠雷のような印象。静かに静かに、近づいてきたそのことは本当はずっと隣に、あるいは内側にあったのだ。それでいてその事実は、過去にあり今は失ったすべてのものの輝きが消えてなくなることを意味しない。すべてはただ、そこにあり、ただ、最後の場所に流れついていく。"

 

読んでいるあいだと読み終わったあとに、感情の大きな動きがなくて、それを解説では「抑制の効いた」というのかもしれません。わたしの稚拙な表現でがんばるなら、やっぱり遠雷みたいな小説だと思えました。遠くで鳴ってて、ああ、鳴ってるなと思う、誰もそれについて語らないけど、鳴っていることはみんなが知っている。そういうものの集合。また読み返すと違う感想もわいてくるのかな。ただ、仕掛けられていることというか彼女たちの未来自体は、ものすごく意外性のあるようには書かれていないですよね。ただそこにある。人によって見えたり見えなかったりするだけの、ただそこにあるものというか。むしろ、その未来...最後の部分の表現を借りるなら「行くべき場所」によって、彼女たちが生きてきた道すじの、あのなんとも言えないリアリティが崩されていないことがすごいと思った。お気に入りだったもの、友だちの表情に苛立ったこと、それでもずっと一緒にいたり、友だち同士でしかできない傷つけ方をしあったり。ものすごく生々しい幼年期のコミュニティの描写がいちいち胸にひたひた迫って、それが本当にすごい。あと、大切な人とも死を分かち合うことはできない、死はそれぞれのものだから。というのはトミーの結論であってキャスの意見ではなかったかもしれませんが、わたしにとってはとても安心するものでした。みんなひとりで流れ去っていくけど、多分「ノーフォーク」も、失われたものすべての行き着く最果てもまた、誰の中にもあるんだろうな。